eJAFMATE特集クリーンビークル・ニューズ: ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車、CNG車などのクリーンビークルについてのトピック集

燃料電池車を詳しく知りたい人のために 基礎知識(1)

燃料電池の仕組み

燃料電池車の構造

2003東京モーターショーに出展されたFCEVコンセプトカー、トヨタ「Fine-N」のカットモデル。水素貯蔵タンクと電気モーターを除く動力システムすべてを車体自体に格納し、モーターはすべて4輪のホイール内に内蔵したバイワイヤ車。運動エネルギーで動くエンジン車ではできない自由な車体デザインも可能なところがFCEVの魅力のひとつでもある

燃料電池車(FCEV)は、搭載した燃料電池(FC)で電気を発電して走行する。FCEVの仕組みは、大きく分けて、

(1)電気を発電する燃料電池
(2)発電した電気を蓄電するバッテリー
(3)車輪を回転させる電気モーター
(4)燃料である水素を貯蔵・生成する装置

からなる。 燃料電池は、燃料である水素と空気中の酸素との化学反応を利用して発電するという、仕組み自体は単純なもの。燃料となる水素は、そのままタンクに充填して搭載するほかにも、車上でエタノールやガソリンを改質して水素を生成する方法などがある。タンクから供給または生成された水素は燃料電池に送られ、電気と水にかえられる。電気は一部が電気モーターに送られてタイヤを動かし、一部がバッテリーに送られて蓄電される。バッテリーに蓄電された電気はシステムの電力消費に利用されたり、加速時の補助に利用される。発電の際に生成された水は燃料電池の外に運ばれて排水口から排水される。しかしその量は微々たるものだ。

FCEVの心臓部 燃料電池の仕組み

燃料電池は、電気を作る「セル」というものを何枚も重ね合わせた「スタック」というもの。セルの構造は、マイナス極であるアノード(燃料極)とプラス極であるカソード(空気極)という2枚の電極及び触媒が電解質膜をはさんでいる。

燃料電池には電解質に何を利用するかによって複数の種類がある。この点、内部での化学反応のプロセスが異なるだけで、このセルの構造自体にはあまりかわりはない。自動車向けの固体高分子型(PEFC)を例にすると次のようになる。

まず、貯蔵タンクや改質器から燃料である水素をアノードに供給すると、触媒反応によって水素から電子が放出される。この電子は外部回路をアノードからカソードへと流れる(電流はこれとは反対の方向に流れる)。この外部回路の間にモーターなどを設置する。一方、電子を放出した水素イオンは電解質を通ってカソードへ移動し、触媒に吸着した空気中の酸素と、外部回路を通って流れてきた電子と結合して水を生成する。このようなセルは、単体で発電できる電圧は1V以下とわずかだ。そこでセルを数百枚と重ねて直列に接続することで電圧を高くし、大きな電力を得ている。

自動車用燃料電池は固体高分子型

燃料電池には電解質に何を利用するかによって以下のように複数の種類がある。

リン酸型
(PAFC)
固体高分子型
(PEFC)
固体酸化物型
(SOFC)
溶解炭酸塩型
(MCFC)
アルカリ型
(AFC)
電解質 リン酸水溶液 固体高分子質
フッ素系が主流
ジルコニア系
セラミックス
炭酸塩
リチウム・ナトリウム系
リチウム・カリウム系
水酸化カリウム水溶液
燃料 天然ガス改質
メタノール改質
ナフサなど
水素
天然ガス改質
メタノール改質
(メタノール)
天然ガス
LPG
ナフサなど
天然ガス
LPG
ナフサなど
純水素・純酸素
作動温度 約200度 常温〜約100度 約1000度 約650度 常温〜約120度
発電効率 40〜45% 40〜60%
(改質ガス30〜40%)
45〜65% 45〜65% 〜60%
発電規模 50〜200kW 250kW以下 100kW〜数十万kW 250kW〜数十万kW
特徴 業務用コージェネレーションシステムとしてすでに商用化段階 自動車用として実証段階、家庭用コージェネレーションシステムとしてはほぼ商用化段階 発電用設備、舶用動力など向けに実証段階 発電用設備など向けに実証段階 宇宙船や潜水艦など特殊用途

電解質の違いによるポイントは、なによりも作動温度の違いにある。作動温度が高ければ起動するまでの温度上昇に時間がかかるし、耐熱性の点でも部材を選ばなくてはならず、システムも大がかりになる。この点、常温〜約100度と低温で作動するために起動が早く、小型化できるメリットから、自動車用では固体高分子型(PEFC)が主流だ。

また、PEFCは出力密度が高く軽量化が可能であること、電解質が固体であるために扱いやすいなどの点も自動車向けのメリットとなっている。もちろんこのようなメリットから、自動車のほかにもコンピューターや携帯電話などの小型電化製品向けにも開発が進められている。

燃料電池車を詳しく知りたい人のために 基礎知識(2)

燃料電池の歴史

1801年 英国のデービー卿が燃料電池の原理を発見
1839年 英国のウイリアム・グローブ卿が燃料電池で発電できることを実験で証明
1932年 英国のベーコン卿が動力源としての実用化研究を開始
1952年 ベーコン卿が5kWの水素酸素式燃料電池の実証試験に成功して特許を取得
1958年 米ユナイテッド・エアクラフト社が特許権を買収、アルカリ型燃料電池の実用化に成功
1961年 米NASA、宇宙船用燃料電池の研究を開始
1965年 米ジェミニ計画でジェミニ5号にGE社製固体高分子型燃料電池を搭載
1967年 米が小容量燃料電池の商業化を目指すTARGET計画を開始
1968年 アポロ計画でUT社製アルカリ型燃料電池を採用、翌々1970年には同型電池を積んだアポロ宇宙船が月面到着。これ以降、宇宙船にアルカリ型燃料電池が実用化
1971年 米で大容量燃料電池の商業化を目指すFCG-1計画開始
1972年 米TARGET計画でリン酸型燃料電池の開発が始まり、12.5kWの実証実験を実施
1981年 日本において通産省主導のムーンライト計画で燃料電池の開発開始(同計画は1993年からニューサンシャイン計画に)
1991年 東京電力が世界最大1.1万kWの燃料電池を実証運転
1993年 カナダのバラード社が固体高分子型FCEVシステムを開発。世界で初めてのFCEVを試作(バス)
1996年 独ダイムラーベンツ社がFCEV乗用車「NECAR-I」を開発。以降、各国の自動車メーカーでFCEVの開発が進展
2002年 日本でホンダ、トヨタが世界で初めてFCEVを市販

原理自体は200年前から

燃料電池の原理自体についてはすでに200年も前から知られていた。1801年に英国のデービー卿が発見、その後、同じく英国のウイリアム・グローブ卿が水の電気分解の逆の化学反応によって発電ができることを実験で証明している。

20世紀に入り、英国のベーコン卿が動力源としての実用化研究を開始、1952年には5kWの実証試験に成功して特許を取得している。しかし、当時は石炭や石油の内燃機関が大きく発展していた時代。燃料である水素の保管や供給方法などの技術的問題はもちろん、触媒にプラチナを使うなどの製造コストと低い発電能力、すなわちkWあたりのコストが高い燃料電池は、環境問題への関心が薄かったこの時代に注目されることはなかった。

宇宙開発の分野で発展

燃料電池が動力源として必要とされたのは宇宙開発の分野だ。スペースと搭載能力が限られている宇宙船には、安全で小型化できる燃料電池が動力源として最適。発電の際に水を生成することも大きなメリットだった。宇宙船に初めて採用された燃料電池はGE社製の固体高分子型だが、現在のスペースシャトルには、ベーコン卿の特許を買い取ってユナイテッド・エアクラフト社が実用化に成功したアルカリ型燃料電池が使われている。宇宙開発の分野で進められた燃料電池の技術とノウハウは、その後の民生用燃料電池開発の下地となっている。

民生用燃料電池の開発へ

二酸化炭素排出量の増大による気候変動、化石燃料の枯渇といった環境・エネルギー問題が深刻化してくるにつれ、クリーンな化石代替燃料として燃料電池の開発が本格化することとなった。特に二酸化炭素排出量の約2割、石油製品消費量の約4割を占める自動車の分野で開発が急がれた。

現在では、発電や家庭用といった民生向けの燃料電池式コージェネレーションシステムが実用化されている。自動車の分野ではまだまだ一般化するにはほど遠いものの、水素直接搭載型のFCEVが少数ながら市販され、実証実験用の水素ガスステーションの運営も行われている。本格的なFCEV時代への実用化への試みがなされている。

燃料電池車を詳しく知りたい人のために(3)

燃料電池車の技術的課題

すでに市販車が発売され、商用車や公共バスとしても街中を走り始めている燃料電池車(FCEV)。しかし一般化するにはいくつか解決しなければならない技術的課題がある。市販型FCEVを例に、普及にあたって直面している、(1)高い製造コスト、(2)冬期の利用、(3)航続距離の短さ、以上の三点について簡単に解説していこう。

現状1台1億円のFCEV 燃料電池の低コスト化が課題

2002年12月、ホンダFCX納車式で報道陣に手を振る小泉首相。日本初の納入先は内閣府。リース契約で月額80万円

kWあたり単価が内燃機関のおよそ50倍〜70倍と計算されるFCEVは、現状で1台1億円といわれる。FCEVの製造コストを下げるには、その多くを占める燃料電池スタックのコスト低減が不可欠。この点、量産化によるコスト低減は大きい。機械工業品であれば、量産化によってコストは10分の1程度には低減可能と一般的にはいわれており、FCEVについてもそのような試算がある。しかも製品化間近の家庭用コージェネレーションシステムとの相乗効果も期待できそうだ。そこで必要となるのがコストの1割程度を占めているといわれる材料費の低減。量産体制が整えば製造コストは限りなく低減できるのに対し、材料費は安価な代替材の開発や性能向上による使用量低減などの努力が必要だ。

材料費でコスト低減のポイントとなるのが、スタックを構成するセルを仕切るセパレータ、水素イオンを通す電解質膜、そして高価な貴金属を使用する触媒だ。

セパレータは、何百という単セルすべてに数枚づつ使用するため、1枚あたりのコスト低減が不可欠。この点、昔だと1枚数万円もした切削成形のものから、量産化を前提にすれば1枚数百円程度のカーボン樹脂成形のもの、さらに最近では1枚数十円程度(量産化前提)の金属プレスによるものも開発されている。

また、電解質膜については、従来のフッ素系の場合には一平方メートルあたり数万円(量産ならば数千円)かかったが、新開発のリン酸塩ガラス系ならば数十円で量産可能だという。

触媒は、低温反応の固体高分子型(PEFC)で唯一有効な貴金属のプラチナ以外、現段階では研究レベルでも見つかっていないため、使用量の低減が必要だ。この点、ナノテクノロジーで触媒能力を10倍に向上させる開発もされている。成功すれば単純に計算して使用量が10分の1になり、コストも10分の1にまで低減できるはずだ。

水を生成するFCEVの宿命 冬期の凍結防止が課題

ホンダが新開発したFCスタック。低温での水素イオン導電性を従来型の2倍に向上させ、マイナス20度の低温下でも始動に必要な分の電解が可能となった

燃料電池は理論的には低温域で効率がよいが、現実には反応ロスなどから実際の効率は高温になればなるほど良くなるという。あまりにも温度が低下すると効率が極端に低下して始動に必要な発電が得られない恐れがある。しかしこの点は低温下での水素イオン導電性を向上させればクリアできる問題であり、実際ホンダは低温での水素イオン導電性を従来型の2倍に向上させ、マイナス20度の低温下でも始動に必要な分の電解を可能としたスタックを開発している。 そこでFCEVにとって最も深刻な問題は冬期における凍結ということとなる。

燃料電池は、電解質膜を水素イオンが通過する際に湿潤状態でなければならない。また、電極上では膜を通過した水素イオンが酸素と結合して水が生成されている。すなわち、燃料電池内部では常に水が存在しているのだ。そこで気温が氷点下になると、これらの水は凍結してしまい、燃料電池自体が始動しなくなる恐れがある。

凍結防止のためには、燃料電池のシステム全体を断熱したり、バッテリーを搭載して融解用の電熱線を張り巡らせることなどが考えられる。しかし重量・体積ともにあまり制限を受けない発電用や家庭用の燃料電池システムと異なり、FCEVではシステムの複雑化などで簡単にはいかないのが実情だ。

まだまだ短い航続距離 水素搭載の効率化が課題

ホンダFCXに搭載されている350気圧の圧縮水素を貯蔵するタンク。アルミとカーボンファイバー、グラスファイバーの複合材を使っているが、これも小さくすることが課題だ

米GMのFCEV「ハイドロジェン3」。GMは燃料に液化水素を使用、航続距離400kmを実現した

実質的な航続距離ではまだまだエンジン車に及ばないFCEV。燃料を多く積(詰)めれば積(詰)めるほど航続距離は長くなるが、密度が低い気体である水素を多量に車載するのは困難だからだ。

そこで多くの燃料を搭載する試みとしては、水素の搭載量そのものを増大させるか、可搬性の優れている液化燃料を搭載して車上で水素に改質するかの二つの方法がある。FCEVでは、前者が水素直接搭載型、後者が改質型という形にわけることができる。 現在のFCEVの開発は、水素を直接搭載する形の方向に集約されてきている。現状では高圧圧縮ボンベを搭載する形が一般的だ。しかし、水素を高密度で貯蔵するボンベは高圧になればなるほど重量が増し、運動性能に負担をかけてしまう。現在、市販FCEVには主に複合材を使って軽量化した350気圧のタンクが搭載されている。しかしまだまだ力不足で、700気圧など、軽量を維持できる高圧ボンベの開発が進められている。

液体水素は可搬性に優れているものの、液化する際に大きなエネルギーが必要であり、充填時や保存時の蒸発が大きいため一般化するには困難なようだ。そこで水素を高率で吸収する水素吸蔵合金の開発なども進められているが、まだまだ満足のいく結果はでていないようだ。

水素を直接搭載するというシンプルな方法に対し、可搬性の優れている液化燃料を搭載し、車上で水素に改質する考え方はFCEVの開発当初からあった。ガソリンやメタノールを車上で改質しながら走行する改質型であれば、既存のガススタンドを利用でき、新たに水素の供給インフラを整備する必要がないからだ。

ところが改質型は、システムが複雑化になり車重が増す、改質によって得られる水素の不純物によって電解効率が低下する、など多くの課題がある。最近は実用化が困難と判断されつつあるのか、現在のFCEV開発の流れは水素直接搭載型に集約化されつつある。

ここで注目されるのがメタノールを改質せずに直接燃料電池に供給するメタノール直接供給型(DMFC)と呼ばれる方法。課題としては、現在主流の固体高分子型(PEFC)と比べて効率が低いこと、高温に耐えられる新しい電解質膜の開発が必要なこと、副産物としてアルデヒドが生成されることなどがある。各国で研究開発が進められている。

(2003年12月掲載)